調査分析レポート

掲載日:2023年11月30日

テキストデータから読み解く研究開発動向事例と調査手法の紹介
米国ファンディング機関が採択した研究課題を例に02NSF採択課題分析の結果概要

調査結果概要

NSFプログラム調査

NSFは、医学を除く基礎科学や工学、教育の全分野における基礎研究及び学術研究活動を支援するファンディング機関である。研究支援には主に7つの局が関わっており、6つの局が特定の研究開発分野における業務を担当し、残り1つの局は教育や人材など統合的な活動を担う分野横断的な業務を担当している(図表 3)。

組織略名 日本語名称 取り組み概要
OD ディレクター室 NSFのミッション及び組織全体の管理運営を支援
担当局 BIO 生物科学局 細胞~生態系まで、生命に関わる原理とメカニズムの研究・教育の支援
CISE コンピュータ・情報科学・工学局 科学と工学にまたがる高度なコンピューティング、通信、情報システム、および高度なサイバーインフラストラクチャの原理と使用に関する研究・教育の支援
ENG 工学局 エンジニアリングの研究と教育、および社会に役立つイノベーションの開発への投資
GEO 地球科学局 地球、海洋、大気、極地の変化の理解、及びそれに適応するための研究・教育の支援
MPS 数学・物理学局 天文科学、化学、材料科学、数理科学、物理学の研究・教育の支援
SBE 社会・行動・経済科学局 人間の行動と社会組織、そして社会的、経済的、政治的、文化的、環境的な力による人々の生活への影響に関する研究・教育の推進
EHR 教育・人材育成局 STEM(科学、技術、工学、数学)の教育および教育研究への投資及び、年齢層や環境を横断的した調査の実施
TIP 技術・イノベーション・パートナーシップ局 重要で新しい技術を促進し、用途に着想を得た研究やトランスレーショナルな研究を加速させ、国民が米国の研究とイノベーション事業に参加できるよう支援

図表 3  米国国立科学財団(NSF)研究支援組織の概要

出典:調査報告書(2022)及び第20回情報プロフェッショナルシンポジウム口頭発表資料より

  • 以降、各組織について述べる場合は略称を用いる

NSFのこれまでの年間実績額を見ると、2008年以降は増加傾向にあり(図表 4)、主たる活動として、科学と工学の全分野の研究開発支援と関連するSTEM教育が挙げられる。

図表 4  NSFの年間活動実績額の推移

出典:調査報告書(2022)を参考に2022年実績を追加


2022年の組織別実績額をみると、MPSが最も高く、次いでEHR、GEO、CISE、BIOと続いていた。次にそれぞれの組織の採択数と実績額の関係を見るため、2021年実績を用いて分析したところ、2021年の組織別実績額はMPSが最も高く、次いでEHR、CISE、GEO、BIOと続いていた。GEOやBIOについて、採択件数は少ないにも関わらず上位に位置する理由については、一課題の支援額が高いことが考えられる(図表 5~図表 7)。

図表 5  NSF組織別の年間活動実績額の推移
  • OPPとは極地プログラム室を指す。

出典:調査報告書(2022)を参考に2022年実績を追加

図表 6  2022年活動実績の割合

出典:調査報告書(2022)を参考に2022年実績を追加

Competitive Awards Research Grants
提案数 新規採択数 支援率 提案数 新規採択数 支援率 年間支援額
中央値
年間支援額
平均値
BIO 3,960 1,175 29.7% 3,355 934 27.8% $222,366.00 $260,029.00
CISE 7,247 1,739 24.0% 7,054 1,625 23.0% $166,549.00 $224,030.00
ENG 7,270 1,466 20.2% 6,877 1,337 19.4% $127,582.00 $161,514.00
GEO 3,293 1,441 43.8% 2,944 1,216 41.3% $166,665.00 $219,659.00
MPS 8,114 2,422 29.8% 7,258 2,117 29.2% $136,964.00 $164,267.00
SBE 3,956 918 23.2% 3,190 638 20.0% $135,479.00 $174,028.00
OPP 411 234 56.9% 366 208 56.8% $235,434.00 $309,130.00
EHR 4,556 925 20.3% 3,578 608 17.0% $166,646.00 $275,445.00

図表 7  2021年活動実績の詳細

出典:調査報告書(2022)

  • Competitive Awardsの内数の一つとしてResearch Grantsがあるという理解。Research Grantsが研究支援種類として9割を占める。
  • 2022年活動実績の詳細を入手出来なかったため、2021年の活動実績を代用した。

また、NSFが優先的・横断的研究課題として挙げているものとして、人工知能や気候変動、先進的産業、クリーンエネルギー、バイオテクノロジー、量子情報科学、先進的無線技術などがあり、組織全体で予算付けをした上で研究支援を行っていることが分かっている。過去3年の実績額の推移をみると、National Nanotechnology Initiative(NNI)とAdvanced Manufacturingを除いた8課題で、前年よりも増加している(図表 8)。

図表 8  優先的・横断的研究課題の実績額推移

出典:調査報告書(2022)を参考に2022年実績を追加

NSF採択課題動向調査

NSF採択課題のキーワード分析結果によると、2018年から2021年にかけて、課題当たりの割合差がもっとも大きいのは、人工知能に関するキーワードである”機械学習”であった。そのほか、地球温暖化や新型コロナウイルス感染症、人材育成に関するキーワードが上位に位置した。2021年に新たに出現したキーワードでは、新型コロナウイルス感染症に関するもの等が上位に位置した(図表 9)。

Rank キーワード 課題当たりの
割合差(pt)
Rank キーワード 課題当たりの
割合差(pt)
2018年には出現せず、
2021年に新たに出現した
キーワード(2021年出現率)
1 機械学習 4.1 11 プロジェクトチーム 1.9 ★1 COVID-19 3.3%
2 気候変動 3.7 12 技術教育 1.6 ★2 SARS-CoV-2 0.3%
3 人工知能 3.4 大学生 1.6 ★3 重症急性呼吸器症候群 0.1%
4 COVID-19 3.3 14 有効性 1.5 景観構造 0.1%
5 汎発流行性 3.2 15 コミュニティ 1.4 大気強制 0.1%
6 公平性 2.7 16 学校教育 1.3 スパイク蛋白質 0.1%
7 学習 2.6 教育 1.3 荷重 0.1%
8 STEM教育 2.2 利害関係者 1.3 Anthophila 0.1%
9 気候 2.0 19 生態学 1.2 クロスレイヤー最適化 0.1%
10 労働力 1.9 ニューラルネットワーク 1.2 マッシュルーム 0.1%
0.1%
雑音特性 0.1%

図表 9  NSF採択課題 キーワード分析2018年及び2021年比較

出典:調査報告書(2022)


また、NSF採択課題の年別共起関係を可視化・グルーピングした共起ネットワーク分析結果によると、2018年及び2021年に共通して可視化されたキーワードとして、気候変動、分子・細胞生物学、人材育成、半導体、材料化学、化学、流体力学、クリーンエネルギー、コンピュータサイエンス、ロボット工学などが見られた。2021年に新たに可視化されたキーワードとしては、人工知能や量子、新型コロナウイルス感染症などに関するキーワードが見られた。2021年に新たに出現したキーワードは今後注目されうる領域として、2018年より出現しているキーワードは引き続き注目される領域として、それぞれ捉えることができる(図表 10)。

また、NSFが優先的・横断的研究課題として位置づける技術分野(人工知能や気候変動、先進的産業、クリーンエネルギー、バイオテクノロジー、量子情報科学、先進的無線技術)に含まれる技術領域も認め、NSFプログラム調査結果とも合致した(図表 11)。

図表 10  NSF採択課題 2018年及び2021年比較(共起ネットワーク分析)

出典:調査報告書(2022)

組織名 【キーワード分析結果】 【共起ネットワーク分析結果】
2018年から2021年にかけて
課題当たりの割合差が増加したテーマ
2021年に新たに
可視化されたグループ(キーワード)
NSF 人工知能地球温暖化新型コロナウイルス感染症人材育成 人工知能量子新型コロナウイルス感染症
担当局 BIO 地球温暖化新型コロナウイルス感染症 人工知能、食料問題、生態系保全、数学モデル活用、流体力学、新型コロナウイルス感染症
CISE 人工知能人材育成労働力確保新型コロナウイルス感染症地球温暖化量子コンピュータ AR技術、新型コロナウイルス感染症分子生物学、地球科学・防災(レジリエンス)、人工知能(ディープニューラルネットワーク)、情報セキュリティ(サイバー攻撃)
ENG 人工知能新型コロナウイルス感染症地球温暖化 気候変動人工知能、セキュリティ、エネルギー(二酸化炭素)
GEO 地球温暖化人工知能新型コロナウイルス感染症環境問題 流体力学、分子生物学(ゲノム)、インフラストラクチャー
MPS 人材育成人工知能、情報セキュリティ、新型コロナウイルス感染症 ニューラルネットワークポストドクター、化学(イオン)、電池(再生
SBE 新型コロナウイルス感染症地球温暖化 ロボット工学、ソーシャルメディア、インフラストラクチャー、新型コロナウイルス感染症
EHR 教育人工知能新型コロナウイルス感染症 気候変動新型コロナウイルス感染症、ゲーム・仮想現実、分子生物学人工知能量子、情報通信
TIP 技術移転、人工知能新型コロナウイルス感染症 新型コロナウイルス感染症気候変動、インフラストラクチャー、温室効果ガス
  • 太字:NSF優先的・横断的研究課題に含まれる課題に関係するキーワード

図表 11  採択課題 キーワード分析 まとめ

出典:調査報告書(2022)及び第20回情報プロフェッショナルシンポジウム口頭発表資料より

ページの先頭に戻る