調査分析レポート
デジタルツインに関する論文・特許調査分析事例03テキストマイニングによる課題、用途、要素技術の洗い出し
「課題・用途・要素技術」の共起ネットワーク分析
デジタルツインにおける主要な課題・用途・要素技術を明らかにするために、テキストマイニングによる共起ネットワーク分析を行いました。
これは分析対象のテキスト に出現する語を抽出し、統計的かつ定性的な分析を行う手法です。
出現頻度、共出現の相関を可視化する共起ネットワーク図を作成し、特徴的なグループに着目することで傾向を読み取ることが可能です。
論文の共起ネットワーク分析
図7は論文の共起ネットワーク分析図です。
この図に出現したキーワード群を『用途』、『課題』、『要素技術』別にラベル付けしています。
このラベル付けは機械的に付与したものではなく、各キーワードが出現した元の文献抄録などを読み解きながら、人手により付与しています。
- 用途
-
特定分野:電力分野、自動車分野、航空分野、建設分野、医療分野、製造分野
特定用途:故障診断、異常検出、製品ライフサイクル管理、機械加工、意思決定支援
- 課題
- セキュリティ、安全性、プライバシー保護、信頼性、予測精度、リアルタイム性、相互運用性、低コスト
- 要素技術
- データ収集、IoT、人工知能、シミュレーション、最適化手法、制御技術
『用途』では「電力分野」、「自動車分野」など多岐にわたる分野が示されています。また、「故障診断」、「異常検出」など特定の用途を示すグループも出現しています。
『課題』では、「セキュリティ」、「安全性」、「プライバシー保護」などのシステムの安全性に関するグループ、「信頼性」、「予測精度」などの予測精度に関するグループ、リアルタイムシミュレーションに関するグループである「リアルタイム性」、コスト削減に関する「低コスト」などのグループなどが出現しています。
『要素技術』では、以下のようにデジタルツインにおける一連の流れが示されていることがわかります。
- データ収集:センサー/センサネットワークなどにより現実世界のデータを収集
- IoT:IoT技術による収集したデータを送信
- 人工知能、シミュレーション、最適化手法:入手した現実世界のデータをサイバー空間上で人工知能、シミュレーション、最適化手法などの技術により処理
- 制御技術:サイバー空間上の処理により得られた結果を基に、現実世界の機器などの制御を行う
特許の共起ネットワーク分析
次に特許の共起ネットワーク図(図8)を見てみましょう。
- 用途
- 自動車分野、航空分野、電力分野、製造分野、医療分野、エネルギー管理、機械加工、故障診断/故障予知、教育/トレーニング など
- 課題
- リアルタイム性、セキュリティ、安全性、コスト削減 など
- 要素技術
- シミュレーション、データ収集、仮想現実/拡張現実、データベース、自己適応、ネットワーク通信 など
『用途』は論文とほぼ同様の結果になりました。但し、「教育/トレーニング」(仮想空間上でのオペレーター教育など)は論文には出現していないグループです。
『課題』は論文よりもグループは少なく、出現したグループは全て論文にも存在しているものでした。
『要素技術』では、「仮想現実/拡張現実」、「データベース」(デジタルツインにおけるデータ基盤)、「自己適応」(環境の変化に応じてシステムの動作を調整する機能)などのグループが特許のみに出現していたグループでした。
ここで、論文と特許の共起ネットワーク図において両者に出現していたグループを整理してみました。
ここに挙げられた『用途・課題・要素技術』は、デジタルツインの研究開発において主要なテーマと考えられます。
- 用途
- 自動車分野、航空分野、電力分野、製造分野、医療分野、故障診断、機械加工 など
- 課題
- リアルタイム性、セキュリティ、安全性、コスト
- 要素技術
- シミュレーション、データ収集、通信(IoT)
共起ネットワーク分析の対象を特定のグループ(用途:自動車分野)に絞り込む例
調査対象全体では出現頻度がそれ程高くなく埋もれてしまうキーワードでも、特定内容に限定した集合を作成してから分析を行えば、その限定集合において特徴的なキーワード(用途・課題・要素技術)を可視化することが可能です。
図9の共起ネットワーク図は、論文で「用途:自動車分野」に限定した集合(自動車、車両、道路、交通などのキーワードで絞り込み)を作成し、それを分析した結果になります。
- 用途
- 製造、車両設計、自律車両、自動運転、電気自動車/省エネ、スマートシティ、交通制御 など
- 課題
- セキュリティ、安全性、プライバシー保護、リアルタイム性、コスト削減、伝送遅延 など
- 要素技術
- 人工知能、IoT、シミュレーション、無線、センサネットワーク、フレームワーク、離散事象、エッジコンピューティングによる待ち時間短縮、モニタリング、衝突回避、状態推定 など
上記で太字で示したグループが、論文全体の分析時には出現していなかったものです。
『用途』では「車両設計」、「自律車両」、「自動運転」、「電気自動車/省エネ」など自動車分野固有のものが登場しています。さらに道路交通に関連したグループである「スマートシティ」や「交通制御」なども見られます。
『課題』では大部分が論文全体時と同様でしたが、「伝送遅延」(パケットが転送される際の遅延)が固有に出現していたグループです。
『要素技術』では「センサネットワーク」、「フレームワーク」(デジタルツインフレームワーク:サイバー空間上でデータ連携させるための共通ルールやガイドライン)、「離散事象」(離散系シミュレーション:時間軸上で離散的に発生するイベントがランダム性を伴う場合に有効なシミュレーション法)、「エッジコンピューティングによる待ち時間短縮」、「衝突回避」、「状態推定」などが自動車分野固有のグループとして出現しています。
共起ネットワーク分析の対象を時系列に分解して変化を見る例
論文で年代別の分析集合(「2012-2017年」と「2018年以降」)をそれぞれ作成し、共起ネットワーク分析を行いました(図10-1及び図10-2)。
この2つの共起ネットワーク分析図を比較することで、「用途・課題・要素技術」の年代別の特徴を可視化すること可能です。
2018年以降で新たに出現したグループを以下に整理しました。
- 用途
- 建設分野、故障診断、工作/加工、異常検出、自律車両
- 課題
- リアルタイム性、プライバシー保護
- 要素技術
- エッジコンピューティング、仮想現実
『用途』では「建設分野」が新たに出現しています。また、「故障診断」、「工作/加工」、「異常検出」などの特定用途を表すグループも確認できます。
『課題』では「リアルタイム性」と「プライバシー保護」が新たに出現しています。
デジタルツインにおいて、予測/シミュレーションのリアルタイム性が大きな課題となっていることがわかります。
『要素技術』では「エッジコンピューティング」が特徴的です。2012-2017年では「クラウドコンピューティング」だけであったことから、エッジコンピューティングによるデータの高速処理(リアルタイム処理)が注目されるようになったことがわかります。