調査分析レポート

掲載日:2023年10月2日

デジタルツインに関する論文・特許調査分析事例05デジタルツインの技術動向まとめ

デジタルツインの技術動向まとめ

キーワードの分析結果(共起ネットワーク分析、経年変化、急変分析)を基にデジタルツインにおける「要素技術・課題・用途」について整理しました(図14)。

『要素技術』では各データ処理のステップごとに様々な技術が存在しており、技術の大きな集合体であることがわかります。
今回の調査結果では、特許(特許出願数:技術の応用度を計る指標)は「センシングによるデータ収集」に関する発明が多く出願され、論文(論文投稿数:基礎研究段階を示す先行指標)はその先にある「意思決定支援システム」について多くの研究がなされていたことから、今後は「意思決定支援システム」周辺の技術(データ統合・解析や仮想空間上のシミュレーション)の特許出願が増えてくるものと推測しています

『課題』では各データ処理に対応する技術課題が以下のとおり明らかになりました。今後もこれらの課題を解決するための技術開発がなされていくものと思われます。

プライバシー保護
ビッグデータ活用に伴う個人情報流出のリスクが心配。
サイバーセキュリティ
デジタルツインには企業・組織・官公庁における重要なデータが存在するため、サイバー攻撃の対象として狙われやすい。
リアルタイム性
リアルタイムで情報を収集(リアルタイムセンシング)しデータ解析を行うことで、リアルタイム性に優れた予測を提供(リアルタイムシミュレーション)。また、エッジコンピューティングを活用し、高速かつ効率的なデータ処理を行う。
フレームワーク
収集するビッグデータについて共通規格、ルール及びガイドラインを策定することで、ビッグデータ同士の連携や統合を容易にさせる。
システム性能
スーパーコンピュータ並みの性能を発揮するシステム基盤。
予測精度
仮想空間上のシミュレーションの高精度化。
自動化
仮想空間上のシミュレーション後、あらかじめ決めた最適条件にしたがって、継続動作を行う(注3)
自律性
仮想空間上のシミュレーション後、環境や状況の変化に合わせて動作条件を更新し、柔軟に対処する(注3)

(注3)「自動化から自律化へ、DXとデジタルツインが実現する未来社会」, TELESCOPE magazine, 表1「自動化と自律化の違い」, 2022/4/6(https://www.tel.co.jp/museum/magazine/report/202204_01/)

東京都ではデジタルツインの実現を目指すにあたり、「防災・まちづくり・モビリティ・エネルギー・自然・ウェルネス・教育・産業」の9分野を想定される活用分野として設定しており、以下の3つのフェーズで実現に向けて取り組んでいます(注4)

  • ~2024年 「試行的な連携の開始」フェーズ
  • ~2027年 「デジタルツインに関連したサービスを実現」するフェーズ
  • ~2030年 「リアルタイムデータ等の活用」フェーズ

最終フェーズでは「リアルタイムデータの活用」が挙げられているとおり、デジタルツインでは「データのリアルタイムセンシング」、「収集データのリアルタイム分析」、「リアルタイムシミュレーション」といった「リアルタイム性」が特に重要であると考えられ、今後も要素技術の研究開発や用途の高度化が進んでいくものと思われます。

図14【デジタルツインの技術俯瞰図(要素技術・課題・用途)】
図15【東京都が設定したデジタルツインの対象分野・サービス(注4)

(注4)「デジタルツインの社会実装に向けたロードマップ 第2版」, P.10~12, 2023年3月(https://info.tokyo-digitaltwin.metro.tokyo.lg.jp/docs/roadmap/roadmap_docs.pdf)

ChatGPTとの比較について

冒頭でChatGPTにデジタルツインの「要素技術」と「適用分野(用途)」について質問し、得られた回答結果に対して、実際の調査結果と比較検証したいと思います。

ChatGPT回答内容:デジタルツインの要素技術について

デジタルツインの構築には、いくつかの要素技術が必要です。

センサー技術
デジタルツインは現実世界のオブジェクトやシステムをデジタル化するため、センサーテクノロジーが欠かせません。センサーは現実世界のデータを収集し、デジタルツインにフィードする役割を果たします。
データ収集と統合
デジタルツインは様々なデータソースからデータを収集し、それらを統合する必要があります。センサーデータ、オペレーションデータ、外部のデータソースなどからのデータを統合し、デジタルツインの正確なモデルを構築します。
データ解析と機械学習
デジタルツインはデータを解析し、予測モデルや最適化アルゴリズムを適用することで価値を生み出します。機械学習や統計的手法を使用してデータを分析し、将来の予測や最適な意思決定を支援します。
仮想化とシミュレーション
デジタルツインは現実世界のオブジェクトやシステムを仮想的に再現するため、仮想化とシミュレーション技術が必要です。これにより、現実の状況を再現し、異なるシナリオの評価や予測を行うことができます。

上記はデジタルツインの要素技術に関するChatGPTの回答文です。
ChatGPTの回答内容で挙げられた主要な要素技術は、「現実へのフィードバック」に関するものが存在しない以外はほぼ同じ結果であり、その精度には驚かされました。
また、箇条書きで簡潔な文章でまとめられている点も評価が高いポイントと思われます。
但し、根拠が示されていないので、そのまま調査結果として使用することは難しいと思われます。

ChatGPT回答内容:デジタルツインの適用分野(用途)について

デジタルツインの適用分野(用途)は広範であり、以下にいくつかの例を挙げます。

製造業
デジタルツインは製造プロセスの監視や最適化に使用されます。実際の機械や設備と対応するデジタルツインを作成し、そのデジタルツインを使用して製造プロセスをリアルタイムでモニタリングし、問題を予測したり、生産効率を向上させたりすることが可能です。
スマートシティ
デジタルツインは都市のインフラや公共サービスの管理に活用されます。都市の構造やインフラをデジタルモデルとして再現し、それをリアルタイムでモニタリングすることで、交通制御やエネルギー効率の最適化、災害管理などが可能となります。
医療
デジタルツインは医療分野での診断や治療の支援に役立ちます。患者の生体データや医療機器のデータをデジタルモデルとして統合し、リアルタイムでモニタリングや分析を行うことで、早期の病気の発見や効果的な治療法の提案が可能になります。

次に上記はデジタルツインの適用分野(用途)に関するChatGPTの回答文です。
「製造業」、「スマートシティ」及び「医療」の3つの例が挙げられていました。
また、各事例の内容については間違った内容の記載は無く、精度の高い回答結果でした。
但し、今回の調査結果ではChatGPTで挙げられた以外の適用分野(例:「自動車分野」、「航空分野」、「電力分野」、「サプライチェーン/物流分野」、「建設分野」など)や用途(「意思決定支援システム」、「教育/トレーニング」など)を多数見つけることができました。その点が大きく異なっており、ChatGPTで網羅的な回答を引き出すことは少々難しい印象を受けました。

ChatGPTと実際の調査結果との比較検証のまとめ

  • ChatGPTの回答結果の精度は悪くなく、箇条書きで簡潔な文章であるので、事前の予備調査として利用する分には有効と思われます。
  • ChatGPTで詳細な内容や最新の内容を把握するのは少々難しいのかもしれません。また、ChatGPTは簡潔に分かりやすくまとめるのが得意な反面、網羅的な情報を整理して提示することは苦手と思われます。
  • 今回の事例では起こりませんでしたが、時々間違った内容を回答しているケースもあるようですので、回答内容の確認・検証は必要になると思われます。
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